10月8日まで行われていたバンクーバー国際映画祭(VIFF)で日本映画「バカ塗りの娘」(英題:Tsugaru Lacquer Girl)が上映された。
今作は高森美由紀さんの小説『ジャパン・ディグニティ』を原作に、鶴岡慧子(つるおかけいこ)監督が映画化した。青森の伝統工芸・津軽塗を題材に、不器用な主人公・美也子が津軽塗職人の父との暮らしの中で自身の進む道を見いだしていく人間ドラマで、地方の過疎化、後継者問題や同性婚など現代の日本の社会問題にも触れる作品だ。上映会場には日本から鶴岡監督も来場し、インタビューに応じてくれた。(取材・文 山脇大夢 撮影・杉岡岳)
「バカ塗りの娘」がカナダ・バンクーバーで上映された事に対してどう思われますか?
「今までの私の作品の中でも(バカ塗りの娘は)わかりやすく日本の文化を取り上げているし、『堂々と日本の風景を撮ろう』との思いがあったので、海外の方のほうが映画に入りやすいのかなと思いました」
鶴岡監督が元の小説から脚色した部分が多くあるとお聞きしましたが、どういった部分が脚色されていますか?
「原作は色々な要素が多くありまして、例えば主人公の美也子と父親がやっている工房に修理の依頼にくるお客さんのエピソードが3つほどあって、小説ではそれがメインになっています。映画化にするにあたって、それら全てを描き切るには時間が足りなかったので、そこをバッサリと落としました。代わりに津軽塗りという主要なモチーフと家族のドラマにフォーカスしました。家族のドラマを少し強めるために原作に登場しない、おじいちゃんを映画オリジナルのキャラクターとして付け加えました」
青森の方言がすごく印象に残っていますが、どういった思い入れがありますか?
「以前から、方言がちゃんとある映画を撮りたいと思っていて、今回それができるチャンスだなと思って取り組みました。私は津軽の出身ではないので、現地の弘前の方に脚本を直していただきました。主役の堀田真由さんと小林薫さんも津軽の出身ではなく、お二人ともすごく苦労されていて、特に小林さんは年配で方言の強い役だったのでトレーニングに苦戦されておられました」
バンクーバーの上映では、映画のとあるシーンで木野花さん演じる吉田のばっちゃが小林薫さん演じる主人公の父・清史郎に「これだから日本の男はダメだ!」と諌めるシーンで会場全体からどっと笑いが起こっていました。カナダの方々のこの反応にどう思われましたか?
「気持ちいいくらい爆笑されていてありがたかったです。日本の上映でも、あのシーンは結構笑いが起きていて、女性の方は笑って男性の方は黙るというリアクションが起きているらしいです。バンクーバーでは日本の倍くらいの笑いが起こっていて嬉しかったです」
今作では主要な登場人物に性的マイノリティの方が登場されますが、制作にあたって取材などはされましたか?
「舞台の弘前市ではパートナシップ宣誓制度というものを市が導入しています。この映画を制作するにあたって、この制度を運用するスタッフの方々に取材をさせていただきました。パートナシップ宣誓制度を導入するにあたって、市民の皆様からパブリックコメントを募集したらしいのですが『青森にそんな人はいません』などのすごく厳しい意見が多くてそれを読んで私もちょっとびっくりしました。最近、日本では LGBTQ という言葉や LGBTQ の方々への理解が広まっているから、これをあえて映画の中に登場させると、今さら感があるかなと心配していたのですが、パブリックコメントを読んでまだちゃんと取り上げないとダメだなと思いました」
映画の最後で主人公・美也子が作った津軽塗の作品が海外で評価され海外に旅立つという展開でしたが、鶴岡監督ご自身も作品が評価され海外の映画祭に参加されておられますが、美也子と監督ご自身を重ねている部分もあるのでしょうか?
「そうですね、一見ファンタジックな展開にみえるかもしれないのですが、私の中ではあれが実体験としてありました。大学の時になりふり構わず撮った作品が、たまたま日本のぴあフィルムフェスティバルで上映され、そこで韓国の釜山国際映画祭の方の目に留まって釜山で上映され、海外にいったという経験があって。ただただなりふり構わず撮っていた作品を誰かが発見してくれて、私自身もラッキーだったと思うですが、決して非現実的なことではなくて一生懸命にやっていれば誰かが見てくれているということはあると思うんです。なので、堂々と主人公・美也子の話として映画に入れました」
監督は今後、海外で映画制作を行うことを考えておられますか?
「どうなんですかね、私ほんとに英語ができないので(笑)でもほんとに、日本のシステムの中だけだと、なかなか作品の幅が広がっていかないというか表現の幅が広がっていかないっていう息苦しさを作り手達は実感していて、それを私も残念ながら感じています。なので海外とコラボして資金を集めて合作として作るって事にはすごく可能性を感じています」