「カナダに来て今の生活を始めてからは、二足のわらじで忙しいですが、健康なメンタルでより充実した毎日を送れている気がします」BCのセミプロサッカーチームTSS Rovers FCで活躍する世川楓悟(せがわ ふうご)選手はこのように語る。
2012年、当時15歳という若さで単身イギリスに渡り、その後ヨーロッパの複数のプロサッカーチームで経験を積んだ後、カナダ・トロントのチームYork Unitedに移籍。バンクーバーに移ってからはサッカーキャリアも続けながら、コープ留学でデジタルマーケティングの勉強も始めた。現在、写真・動画クリエイターとしての新しい道も築いている世川楓悟選手の経歴や、ヨーロッパからカナダへ活動拠点を移した理由と心境などを聞いた。(取材 高橋星乃夏)
ヨーロッパを離れてカナダで新しいサッカー人生が始まりましたね。渡加後も2つのチームと1年半の無所属期間を経験されたようですが、どのような心境の変化がありましたか?
2020年にYork Unitedから加入のオファーをもらい、15歳からいたヨーロッパを離れて新しい挑戦をするために北米に来る決意をしました。渡加後はコロナウイルスの拡大によるシャットダウンや怪我をしてしまったこともあって、チームに所属していない状態の期間を1年過ごしました。無所属期間は長ければ長いほど選手としての価値は落ちていくため、サッカーだけで生きていく厳しさを感じました。
ここに来るまでたくさんの紆余曲折を経たようですね。ヨーロッパと北米でサッカーを経験し、それぞれの地域に特徴や違いも感じたのではないでしょうか。
ヨーロッパはサッカーが生活の一部とも呼べるほど浸透しているのに比べて、York Unitedに加入したときはカナダの国内プロリーグが発足してから2年も経っていない頃だったので、その部分でギャップは大きく感じましたね。戦い方に関しても、戦術的なサッカーをするヨーロッパに比べて、北米のチームはシンプルでダイレクトなサッカーをするなと感じます。ヨーロッパに比べるとまだマイナーではありますが、2026年のアメリカ・メキシコと共同開催のワールドカップに向けてカナダのサッカーリーグも盛り上がってきているので、今後の流れに期待しています。
サッカー文化が浸透しているヨーロッパでは、選手として多くの学びがあったかと思いますが、カナダのリーグに来たからこそできた経験もありましたか?
ありました。一番印象に残っているのは、今年の4月にあったカップ戦の初戦で、自分のチームより格上のカナディアンプレミアリーグに所属するチームに勝利した試合です。カナダの歴史上初めてセミプロチームがプロリーグのチームを倒した試合だったので、一番嬉しかった出来事のひとつですね。また、今までのポジションは左サイドバックだけでしたが、今シーズンからはボランチや右サイドバックなど他のポジションにも挑戦できるようになり、オールマイティな選手になりつつあるので、リーグが落ちても選手としての成長ができていると感じています。
カナダでのサッカー生活は充実しているようですね。選手生活を続けながらコープ留学に参加しようと思ったのはどうしてでしょうか?
無所属期間に、サッカーだけで生きていくのではなく、第二のキャリアを考えなければいけないと感じ始めたのがきっかけですね。元々、サッカー以外の分野も勉強してみたかったので、最近話題のマーケティングを学んで、関心のあった写真や動画の撮影に関連したキャリアを築こうと考えました。ヨーロッパにいた頃はそれぞれの国の文化が強かったので、自分に対して「外国人」であるという自覚は多少なりともあったのですが、カナダは多種多様で、文化が混合しているところに居心地の良さを感じ、ここで新たな勉強をしたいと思いカレッジを探し始めましたね。
サッカーを続けながら新しい勉強を始めるのは簡単ではないと思います。コープ留学で実際にマーケティングを学んでみていかがですか?
充実していますよ。自分は大学に通っておらず、就職経験もなかったので、ビジネスを広く浅く学ぶだけでは大学に通った人や社会人達に勝てないと感じ、最近話題になっているデジタルマーケティングのコースを、通常のコースとアドバンスコースを繋げて合計2年で学んでいます。マーケティングの技術や知識を深く学べましたし、興味があった写真や動画撮影に関連付けた仕事ができていると感じています。
社会人経験のない状態で、バンクーバーでマーケティングに関連した仕事を見つけるのは難しかったですか?
自分の通っている学校では、ボランティアなどに参加して、レジュメに書けるような経験をカナダでなるべく多くすることが推奨されていたので、座学期間のうちから写真撮影のボランティアに積極的に参加して経験を積んでいました。自分がボランティアなどで撮影した写真を、1年ほどかけて集めてウェブサイトを作成し、それをポートフォリオにして仕事探しをしたのですが、その経験のおかげもあってか仕事探しは割とスムーズでしたね。
ボランティア活動を重ねた経験が、今のカナダでのクリエイターとしてのキャリアに繋がっているんですね。
そうですね、仕事探しでは、「社会人経験や大学での学習経験のある人達に負けない自分の見せ方」を大切にしていたので、自分の理想のキャリアに近づくために積んだボランティア経験は、今のキャリアの大きな要因になったと思います。そのおかげで、今は不動産の会社でのコンテンツクリエイターの仕事と、プロフィール写真などに使うポートレート写真、レストランの広告用写真、ブランドの製品写真などを撮影するフリーランスの仕事が2つ、ヨーロッパで活動していた時代の人脈で得たイギリスの会社のソーシャルメディア運用の仕事ができています。
サッカー選手として、またクリエイターとしての、今後の具体的な展望があれば教えてください。
今年26歳になるので、サッカー選手としてはもう若くないですが、とりあえず全力でプレイを続けたいです。他のチームからオファーが来たら移籍も考えますが、クリエイターとしての「プランB」の道にも力を入れたいです。将来的には撮影の技術とマーケティングの知識を生かして、自分のブランドを作ることが目標なので、そのために、技術向上とより広いコネクションを作っていくことをがんばりたいですね。
最後に、2つのキャリアを同時進行されている世川選手から、将来海外でのキャリアを築きたいと考える人々にメッセージを。
先程も述べた通り、自分は大学に行ったわけでも日本での就職経験があるわけでもありません。ですが、自分を含め、学歴や職歴がなくても、カナダでキャリアを築いている人をたくさん見てきました。ボランティアなど自分の目標に近づく経験を積極的に活用すれば、誰にでも可能性はあると思うので、心配せずにいろんなことに挑戦してみてほしいです。