第79回 9カ月間の希望と期待と苦悩と不安
第三次世界大戦の流れにもなりかねない気配の昨今の世界情勢。新聞、テレビ、ラジオ、インターネットなどに流れるニュースは連日「戦争、戦争」の言葉で埋め尽くされている。 罪のない一般市民、年老いた人々、そして何よりもいたいけな子供たちが逃げ惑い泣き叫ぶ姿。目を覆いたくなる戦場と化した町々の状況が否応なしに飛び込んでくる。そのたびに、昨今の物価高を嘆きながらも、一応恙なく日常を送っている自分が何か責められているような気さえしてくる。 歴史を紐解くまでもなく、戦争は何時の世も男たちが引き起こすものと決まっている。そしてどちらもがそれぞれの言い分を声高に叫び、例えそれが身勝手で理不尽で非人間的な理由であっても、大方は自分の或いは自国の利益の為と主張する。 そうした戦争の立役者たちの裏で、虎視眈々と直接的/間接的に糸を引く大国や周辺の国々、こんな状況を商機ととらえる人々の何と多いことか! 名だたる指導たち 「ずる賢い」ことの象徴のように言われる狐に、まことによく似た目を持つプーチン大統領。こんな類似点を取り上げたら狐に悪いとは思いつつも、抜け目のない行動も一致するかに見える。 柔道に大変造詣が深く黒帯の保持者と言うが、教えである「自他の共栄をはじめとする精神を学び世の中に貢献することを究極の目的とする」などどこ吹く風の馬耳東風。ウクライナへの侵攻はこの精神とは真逆で愚かな行為などとは露ほどにも思うまい。 その戦争を好機と捉え、すり寄る北朝鮮のリーダーは動物なら何に例えようか。食料不足で自国の民が餓死している等のニュースも耳にするが、日本の大福を連想させるふっくらとした頬を持つ娘共々、栄養は十分過ぎるほど行きわたっているかに見える。 その隣国の君主は、どんな時も「アルカイック・スマイル」とでも呼びたい程しか顔の筋肉を緩めない。内面を一切表に出さないのが大国のリーダーと心得てか、わずかなほほ笑みのその陰で何を考えているのかは図り知れない。 岸田首相が何度となく「自由で開かれたインド太平洋の推進~」などと言ったところで一切動じる様子はない。記者会見に登場する報道官もまたしかりで、東シナ海など等で国際的にどんな違法行為をしても、何も臆することなく自国の正当性を厳然と主張する。 男たちが引き起こす「これでもか!」と続く戦争の最卑近の例は、言わずと知れたイスラエル軍によるパレスチナ自自区ガザ地区への大規模な空爆がある。 10月7日の開戦以来一か月余り。双方の死者が一万人を超えたが、ハマスのネタニヤフ首相は一歩も引く姿勢を見せない。あまつさえ極右閣僚の一人が過日「ガザへ核爆弾を落とすのも選択肢だ」と発言。さすがに非難が高まったものの、恐るべき思考の戦闘員は彼一人ではあるまい。 加えてアフガニスタンで猛威を振るうタリバンの支配や、いつ終わるとも知れないミャンマーの軍事組織の謀略も民意など一切関係なく殺戮が繰り返されている。 一発の銃弾でいとも簡単に死にいたるはかない人の命のもろさ。男たちは、その一つの命を生み出す9カ月間の女たちの不安と期待、苦悩と歓喜がどれほどのものかを知っているのだろうか?! 貴方がた自身も貴方がたの母親によって、この世に生を受けたことをよもや忘れてはいないだろうが、その母親たちは将来大殺戮によって多くの人間、特に幼い子供たちを殺害する指導者になることを望んだだろうか?! 与謝野晶子の詩 「戦争」と言う言葉を耳にするたびに頭をよぎるのは、明治から昭和にかけて活躍した女流歌人 与謝野晶子の弟が日露戦争(1904年から18カ月)の激戦地にいる弟を思って詠んだ詩である。 その中に「皇尊(すめらみこと)は戦いにおん自らは出でませぬ」との一行がある。そう、どの戦争指導者たちも、自らは戦場に赴き武器を持って茫々たる荒野を、ぬかるみの戦場や暗黒の塹壕を駆け巡らないのだ。明治天皇も昭和天皇もしかりで戦場には赴かなかった。 諸々の戦争に加担している男たちよ、どうか一日も早い終結の道を探って欲しい。