高名な庭師の北山安夫氏に京都で師事した後、バンクーバーに移り2020年にKUNON Landscape & Designを立ち上げた脇野薫平さん。この地に日本庭園の奥深さと魅力をより浸透させるべく、さまざまな現場に立ちあっている。脇野さんが手掛けた庭を案内してもらいながら話を聞いた。
顧客のリクエストなどにはどのように対応していますか。
全部任せてくれるお客様もいますが、お客様と一緒に考えたいというのはあります。理想や求めているものをなるべく聞き出したい、それが面白さに変わる可能性もあるので。
カナダなのでいろいろな人種、文化的背景があり、日本では絶対に作れない日本庭園の可能性があると思っています。いわゆるフュージョンというか、文化的背景が異なる人が関わることによって全く違うテイストに変化するのではないかという期待もあります。それは明らかに目に見える変化というより、徐々ににじみでてくるものではないかと思います。
庭造りは最初に図面を描いてお客様にお見せして、そのなかでいろいろ議論するのですが、実際造っているうちに「こっちの方がよいのでは」ということは多々あります。そういう時すべてお客様の言う通りにするのではなく、こちらからも提案しつつ、その場その場で調整をしながら対応していくというのが、本当に面白く楽しいです。
お客様の庭なのでお客様の意向を反映させたものを造り、喜んでもらいたい。愛着を持ってもらえれば庭を大切にしてもらえます。植物は生き物なので愛情を持って手入れをしてもらいたいですし、植物の成長も楽しんでほしいです。
どの庭にも大小さまざまな石が多様に使われています。日本庭園を造る際、植栽だけでなく石組も重要ですか。
基本的に日本庭園を造る上で大事なのは、まず地面の形を造ること。起伏をつけ、地の部分をきちんと造る。それに骨格となる石組をする。そこに植栽をして、色と季節をつけるという大きな流れです。
日本人にとって石というのは古来よりとても大切にしてきたもので、たとえば磐座(いわくら)という岩に注連縄(しめなわ)を巻いて祀るなど、石に対する精神性のようなものが日本人にはあるんです。こういった精神性が、日本庭園が文化的にも世界で高く評価されている所以だと思います。
海外でにおける日本庭園造りの困難はどのようなものでしょうか。
日本は庭造りの歴史が長いので文化として熟されていて、やりやすいですね。買いたい石は石屋さんに揃っているし、道具も揃っている。業者さんもたくさんいるし、欲しい形の木を探せば難なく見つかる。文化的な背景がある中で庭造りをさせてもらっていたことを、こちらに来てから強く実感しました。
一方こちらでは、石でも植物でも自分の理想に近いものを自分で探さなくてはいけない。あるいは育てたり作ったりしなくてはいけない。妥協しなくてはいけない部分も必ず出てきますが、そのときどきのベストを尽くします。そういった点において、いい落としどころを見つけるのが職人としての腕だとも思うので、これらの困難さを、面白さとしてプラスに捉えるようにしています。それは海外で庭造りをする醍醐味でもあります。
日本とつながりを持たない人が、日本庭園に興味を持つきっかけはどんなものだと思いますか。
いわゆるファッションというか、ビジュアル的にいいなと考えている方もいらっしゃると思います。
また、日本庭園を文化のひとつとして価値を見出していることには、背景があると思います。おおげさな話になりますが、物質第一主義的な世の中になり、資本主義も行き詰まっているような時代の中で、安らぎや別の価値観を求めているというところはあるんじゃないでしょうか。そういった流れの中で、新たな価値観や心の安らぎのようなものを、日本庭園に求めているのではという気がします。日本庭園にはそういう可能性が大いにあると思います。
日本庭園にとっては「間」というものがとても重要で、削ぎ落としていくことは大事なプロセスになります。無駄なものは排除して、自分が入り込める余地を残す。空間を作り、そこに自分が入って初めて完成するというものです。そういったことを意識して造るのも面白さですね。
脇野さんは現在、バンクーバー周辺では個人宅の庭造りが多いが、BC州の他の地域やカナダ国外では、公共施設の庭園の管理などにも携わっている。所属するバンクーバー日系ガーデナーズ協会(VJGA)が手がける造園、設計にも関わる。もちろん個人宅での剪定や芝生の手入れなどといった管理もおこなっている。
日本の剪定技術はこちらのものと全然違いますので、そういった違いも知ってもらいたいです。ニューデンバーの強制収容所跡に建てられた博物館にある日本庭園の管理もしているんですが、今年はそこで剪定教室を開きました。地元の人たちにも興味を持ってもらえることはとてもうれしいです。
この地においての日本庭園の将来性をどうお考えですか。
発展していく可能性は高いと思います。日本は狭く、庭を造る方が減っていますし、庭師として有名で人気のある方々はコンスタントに仕事があると思いますが、今から始める人などにはかなり大変です。こちらの方が、やる気と能力があればチャンスは多く、将来性は高いといえます。
移民の多いカナダにおいて、日本庭園に興味を持たれる方も増えていくでしょうし、自分自身も、コツコツと日本庭園の素晴らしさを伝えていくことが大切だと思っています。
たとえば公共空間の場合、庭は見て楽しむだけでなく、庭以外の日本文化を伝える舞台にもなり得ます。茶道、華道、陶芸、彫刻展示などの日本文化の紹介やイベントなどをおこなう舞台装置にもなる。実際に2022、2023年と、VanDusen植物園で開催されたジャパンフェアのVJGAブースでは、私が担当して日本庭園を造り、そこでお茶会のデモンストレーションをおこないました。かなりの観客が集まり、みなさんの日本文化への関心度が感じられました。
庭の可能性は広いので、そういう点を評価してもらって、それに携われたら楽しいですし、やりがいもあると思います。日本で、庭が好きで技術を持ってやっている人も、もっとこちらに来て挑戦してほしいですね。
KUNON Landscape & Design
脇野薫平(Wakino Kumpei)
電話:778-836-9312
Eメール:kunon.landscape@gmail.com
ウェブ:www.kunon-landscapeanddesign.com
インスタグラム:www.instagram.com/kunpeiwakino
(取材 大島多紀子 写真提供 脇野薫平さん)