「会社を作っては売却」「新型コロナウィルス禍でのカナダ家族移住」など、思い切った決断をするLIMHAUS Inc.(リムハウス)代表森田将和さん。バンクーバーに引っ越した現在は、ここを拠点に日本人にフォーカスしたウェブサイトの制作サービスCrane Design(クレインデザイン)も立ち上げた。そんな森田さんの決断の根底にあったものとは?本インタビューを通して探っていく。
せっかく会社を作ったのに、どうして売却したのですか
これまでにウェブサイトやサービスを提供する会社を2社作って売却しました。もともとその2社は、売却先の弱点を埋める目的で、初めから売却するというゴールを見据えて作ったものでした。例えばうち1社は、就活生向けに企業紹介やエントリーシートの添削などをやっていましたが、学生を集めることが苦手だったため「うちがウェブメディアの会社をスタートさせて学生を集めましょう」という話に。その後、「学生が集まってゴールに到達したので、このメディアを買いませんか」という流れですね。
自分が作ったものを使ってもらい評価されたという点で、この経験は大きな自信を与えてくれました。「最後に契約してもらい、判子を押す」大変なことも多かったですが、給与をもらうのとは全く違う喜びでした。起業してよかったなと思うことのひとつです。
それは価値のある経験でしたね。森田さんはサラリーマン経験もありましたが、会社を作られたのはそういった経験を求めたからですか
いや、ポジティブに言うとそうなんですが、ただ会社員が合わなかったって言う(笑)毎日同じ服を着て、同じ場所に行くっていうのが耐えられなくて。だからサラリーマンをやめて独立、株式会社LIMHAUSを作りました。
どのような会社ですか
株式会社LIMHAUSではウェブサイトの開発やウェブサービスの開発を、受託・自社サービスの両面で行っています。会社の名前は、「Less Is More(レス・イズ・モア):機能美」。シンプルなもの作りをする会社でありたいという思いを込めています。「ハウス」は、かつてドイツにあった「人間の生活に即した良いものを作っていこう」というモットーを持つ美術・建築系の学校Bauhaus(バウハウス)からとっています。
シンプルなもの作りのためには、どのように仕事を進めていきますか
まずは、ゴールを決めて選択肢をどう取っていくかを考えることです。現在自分がどのような状態であるかは、すでに決まっている。そして将来どこを目指すかを決めてしまっても、その間の選択肢はたくさんあると思うんです。
世の中にない画期的なものを作ろうとは考えていません。「絶対需要があるけれど誰もやっていない」「誰かがやっているが、うちに強みがある」という、賭けではなく確実なところを狙っていくんです。多い時には月にひとつずつ、いろいろなテーマでウェブサービスとウェブメディアなどを世の中に出しています。芽が出そうなものには力を注ぎ、ダメなものや好きではないものはクローズしていく。ホームランを打つよりはヒットを重ねていくというプレイスタイルでやっています。
それから私のもの作りは、面倒が嫌で生まれていることが多いです。プログラマーの三大美徳のひとつに「怠惰であること」というのがあるのですが、まさにそれです。繰り返し同じことをやるならプログラムを書いて、自分が触らなくても自動的に動作し終わるようにしてしまおうとか。エンジニアには手を動かして何かができる楽しさがありますね。
日本国内ですでに数々の事業を展開しているのに、なぜこの新型コロナウイルス禍の渡加を
子どもの教育を一番に考えてです。妻は反対でした。言葉や文化の違いや、わざわざこのコロナの時期にリスクを冒してまで海外へ行く必要があるのかと。でもコロナより前から日本で準備も進めてきたし、いろいろなことも調べていたので、上の子が学校へ入る年に合わせてこちらへ来ることにしました。
家族で移住となると大変なことも多かったのでは
初めのころは妻や娘は不慣れな状況やコロナ禍での制限、言葉の問題などで、ストレスを感じている様子でした。でも生活のルーティンができ、住めば都だと思えるようになったようです。バンクーバーは探せば日本のものやサービスもあるし、日本人移住者の方が比較的多いところが良いですね。
上の子は英語がわからない状態でこちらへ来ましたが、今では友達とプレイデートをしたり、習い事をしたりしています。だんだんこちらへ馴染んできたようで、自分の意見はしっかり言うけれど、ちゃんと話し合って遊ぶ内容を決めたりできるようにもなって。もともと文化的なところも身につけてほしいと思っていたので、移住は良い決断だったと思います。
下の子もストロングスタートという保護者同伴で0歳から5歳まで参加できるBC州の無料教育プログラムに参加したり、デイケアへも通い始めました。私自身の変化は特にあまりありませんね。仕事道具はどこへ行ってもこのバックパックひとつだけです。
これからの抱負を教えてください
バンクーバーに移住して、日本人が提供するサービスやホスピタリティの質はとても高いと感じました。私のように『サラリーマン』として働く閉塞感や子育てなど、ワークライフバランスの観点から起業したいという方、海外移住をしてみたいという方はいらっしゃるはずです。そのような方がチャレンジできる環境を整えるために、弁護士、会計士、日本人コミュニティなどと協力し、サポートしていけるような事業も始める予定です。
これからも挑戦心を持って
森田さんの決断は、最初からゴールを見据えた手堅い戦略の上。ここでやっていきたいことはたくさんあるようだ。新天地バンクーバーでの挑戦は始まったばかり。これからどんなサービスを生み出して、北米で頑張る起業者たちを応援してくれるだろうか。森田さんの活躍が楽しみである。(取材 パーバッカー真智子)
森田将和(もりた・まさかず)
茨城県出身。大学、大学院では経済、人工知能関連や進化ゲーム論の研究に携わり、その後1年半ほどいくつかの会社勤務を経験するが2014年に独立。株式会社LIMHAUSをはじめ、これまで合計5つの会社を設立(うち2社はすでに売却)しウェブサイト制作やヘッドレスCMSなどのウェブサービスの開発を行う。
ウェブサイト:LIMHAUS(リムハウス)
ウェブサイト制作サービス:Crane Design(クレインデザイン)