インド政府は21日からカナダ人向けの訪問ビザ発行を停止した。カナダからインドへ観光を目的にする訪問者は年間8万人ほどだが、すでにビザを持っている旅行者には影響しない。またインドの国籍カードを持ったインド系カナダ人や、カナダに就労あるいは学生ビザで滞在しているインド人のインド入国には支障はない。カナダはインド人学生にとって、人気の留学先であり、年間30万人ほどのインド人学生が渡加している。インド系カナダ人は推定150万人から180万人いる。
現在の外交関係悪化の発端は6月にシーク教指導者ハーディープ・シン・ニジャール氏が、プリティッシュコロンビア州のサレー市にあるシーク教寺院の駐車場で射殺された事件。ニジャール氏はシーク教徒による独立国家カリスタン建国運動を率いた著名人で、インドからはテロリスト指名を受けていた。カナダのトルドー首相が今月18日にカナダ国会での報告の際にこの事件に触れ、インドの工作員がこの事件に関与した疑いがあると発表し、カナダ外務省はインド人外交官一人を国外追放した。これを受け、インド政府は事件への関与を全面否定し、猛反発している。同様にインド政府はカナダ人外交官を国外追放にし、21日からカナダ人への観光ビザ発行も停止した。
シーク教徒はインド人人口の2%を占める宗教的少数派である。かねてからパンジャブ地方に独立国家提唱運動があったが、これをインド政府が過激分子によるテロリスト活動としており、カナダ、オーストラリア、英国などシーク教徒の多い国々に厳しい対応をするよう圧力をかけていた。
ニジャール氏の他にも、シーク教徒指導者二人が英国のバーミンガムやパキンスタンのラホールでも不可解な死を遂げている。トルドー首相は国会での報告の際、ニジャール氏が帰化したカナダ人であったことからも「いかなる形であれ外国政府の関与の下、カナダ国籍者がカナダ国内で殺害されるのは我が国の主権に対する受け入れがたい侵害だ」と強調した。カナダとインド間での外交関係悪化はアメリカのホワイトハウスも懸念を示しており、今後の事件の捜査、および両国の動きが注目される。