100回を超えて続けてきたこのコラム、これもみなさんの支持あってのことと、感謝、感謝である。そんななかいささか寂しいことだが、この12月をもって終了の運びとなる。そこで今回は、私がここで伝えてきたこと、伝えたかったことを総括し、改めて語りたい。
まずこのコラムでは、しばしば価値創造活動、具体的な例としては、売り方ひとつで売れ行きが大きく変わっていく例をお伝えしてきた。連載第1回の猫の貯金箱の話はその典型で、その他、最近取り上げたシフォンとサブレの事例など、同様のテーマで取り上げてきた実例は数多い。しかしそれらを通じ伝えたかったことは、単に「売り方」の工夫ではない。「売り方」に見えるものは、実は動機の生まれ方に関することで、私の専門分野のやや小難しい言い回しをすれば、お客さんの〝感性〟という脳の働きにいかに働きかけるか、それによりお客さんにとっての価値や意味の認識がどう変わり、行動がどう変わるかという営みだ。すると事は単なる売り方や、ましてや店頭でのPOP(店頭販促物)の作り方の話ではなく、商売のすべての分野・段階におよぶ。このことを端的に伝えてきたのである。
また例の多くは、それまで売れていなかったものが売れるようになったものだった。そこからは「売れない」という現象が意味すること、そもそも「売る」ということ、「買う」という行為は人にとってどういうものなのかという気づきがある。
モノやサービスがあふれかえっている今日、それでもお客さんが「買う」のは、自分の人生に新たな価値や意味を発見したいからであり、それはいつの世も変わらない。「売る」とは、そういった人の根源的な欲求にいかに応えるかであり、売上は目的でなく応えた結果だ。さればこそ、売上が商いの最高の勲章となるのである。
またもうひとつ、ここで繰り返し語って来たことは、お客さんとの絆作り、顧客コミュニティを育むことの大切さ、それが商売にもたらすものの大きさだ。最近取り上げた牛乳販売店の誤発注の話などはその典型だ。他にも、数多くの例をご紹介してきた。ただ、絆作りと言うと「余裕ができたら取り組みます」という反応もあり、絆作りが収益にもたらすもの、裏を返せばこれが成されないことによる損失についての誤解はまだまだ根強い。
商売というものは顧客がいて初めて成り立つ。顧客が顧客であり続け、彼らの十分な価値認識と相まって、正当な対価をもって「買う」と行動し続けてくれれば、企業収益は安定する。そういう顧客が増えれば企業は成長する。企業の安定も成長も、常に顧客と共にある。それを実現することが、絆作り、顧客コミュニティ育成の第一義だ。
またこの時代、顧客が口コミなどによって新たな顧客を生む力は強大かつスピーディーで、顧客コミュニティが育まれることで、それは自己増殖的に大きくなる。さらにはこの先、顧客コミュニティは、商品・サービスの開発やマーケティングに絶大な影響力を発揮していく。すでに作り手・売り手・買い手の垣根のない円環のような組織体が、私の身近の実践者らの現場には続々誕生している。
商売は、すでに新たな世界に生きている。そしてそれは、人と人とがつながり合うところにこそある、新しくも懐かしい世界なのである。