9月21日、日系女性企業家協会(以下:JWBA)にて、二人の企業家を迎えて秋の講演会が開催された。毎年開催されているこの講演会だが、今年は、ベーカリー「Kanadell」を運営する中西桂子(なかにしけいこ)さんと、ホームサポートサービス「MatchaCaring」を運営する坪井彩実(つぼいあやみ)さんが登壇し、自身が起業をすることになった経緯や、カナダでビジネスを立ち上げることの苦労を語り、約80名の起業を夢見る参加者達に体験談を明かした。(取材:高橋星乃夏)
会長の松下秀弥さんは、「JWBA発足当初は、ビジネスを立ち上げるための情報源が少なく、人種差別や女性に対する待遇の悪さも現在より大きかったため、日系女性がカナダでビジネスを立ち上げるのは簡単なことではなかった」と、講演会冒頭で語り、JWBAの企業家の日系女性たちが、情報交換や企業家ならではの悩みなどの共有を通し、人との繋がりを大切にする姿勢を強調した。
一人目の登壇者は、度々マーケットなどで長蛇の列を作っている人気ベーカリー「Kanadell」を立ち上げた、中西桂子さん。「経営脳のススメ」というテーマを元に、バンクーバーで飲食店を経営する上での困難・注意点や、自身が Kanadell の経営を軌道に乗せるまでの汗のにじむ努力を語った。
「大学の専攻が英語だったこともあり、海外に住んでみたいという夢を諦めきれず、30歳で「ギリホリ(年齢制限直前のワーキングホリデー)」を決意しました。
その後、必死の求職活動の末、留学エージェントのマネージャー業でカナダへの移民権を獲得しました。マネージャー業は自分に向いていると思っていましたが、学生の頃から、「自分で自分の人生の舵を取る」生き方に憧れがあって。それに、「人の不便を解決する」ことがビジネスのカギですが、カナダに来てからは生活に不便な点が多すぎたため、ビジネスのカギしかないじゃん!やるしかない!と思ったんです(笑)
どんな事業をしようかと模索していたところ、SNSに投稿していた趣味のケーキ作りの投稿に、「お金を払うから私にも作って欲しい」というコメントがつくようになって。これはビジネスになるかもしれないと感じ、すぐに共同キッチンを契約し、ウェブサイトを制作しました。日中は留学エージェントの仕事、帰宅後にケーキを焼いては写真を撮影してウェブサイトに掲載するという生活が始まり、忙しい日々を過ごしていたところ、なんとキッチンの契約からたったの3週間で、バンクーバーで一番規模の大きなファーマーズマーケットへの出店依頼が来たんです。
マーケットでケーキを出店するのは、保存環境などを加味すると困難だと感じたので、商材をケーキからパンにシフトしました。ファーマーズマーケットに出店後、「カナダで食べられる日本のパン屋」として認知していただけるようになり、他のマーケットなどにも出店させていただけるようになりました」
Kanadellの誕生秘話を語ったあと、中西さんは、飲食店の高い初期投資や店舗の視察がなかなか進行しないこと、法人化のタイミングなど、自身の起業を通して体験した苦労を語った。
次に、ホームサポートサービス「Matcha Caring」を運営する坪井彩実さんが登壇。明るい人柄と、ホームサポートサービスだからこそ経験した、現場のリアルや珍事件などの笑いを誘うエピソードトークで、参加者を惹き込んだ。
「4歳から障がいを発症した姉の影響で、社会福祉を必要とする多くの方々と出会い、大学で社会福祉学を専攻した後にソーシャルワーカーという仕事に就きました。同組織で8年の実績を重ね、海外で社会システムや社会福祉を学びたいと思い、カナダへの移住を決心をしました。
2015年に来加後、シニアのサポート、ホームレスの支援、低所得者、シェルターなどでのボランティア活動や掃除からはじめ、特定の家庭で子どもの支援を家庭で行う「ナニー」という仕事があることを知り、2年間の就労を経て移民権を獲得しました。
2年間のナニー活動を通して出会った方々から、「うちでもサービスをしてほしい」とご要望をいただくようになり、それならば自分で母体を作って社会貢献活動をしていこうと思い、この MatchaCaring を設立しました。ここでは、「人と繋がり、共有し合い、尊重し合い、称賛し合う」をテーマに、完全オーダーメイド制で家族支援サービスを提供しています。チームケアを導入し、、サービス内容によってその分野を得意とするスタッフの派遣を可能にし、より多角的な視点での問題解決を可能にしました。私達のサービスは、子育て、シニア支援、障がい・社会支援、学習支援など多岐にわたり、どのような支援の方向性が良いかなどのヒアリングを各ご家庭に細かく行った上でチームで意見交換を密に行った上でサービス提供をしています。
ご家庭にお邪魔して行うお仕事ならではの出来事も度々あります。赤ちゃんのお世話をしていたら、夫婦喧嘩が原因で旦那さんが警察に連行されたこともありました、、、。また、海外旅行の付き添いをしてほしい、旅行先での家事をサポートしてほしい、などの珍しい依頼も度々いただき、とても刺激的で充実した日々を過ごしています」
終始笑顔に包まれた講演の後、坪井さんは、アイディアを実行する「はじめの一歩を踏み出す」ことと、口コミや近所の評判でビジネスが評価され、拡大していく「お金も時間も労力もかけない」戦略を、これから起業をしようと考えている参加者へのアドバイスとして送った。
JWBAは起業する日系女性が交流する場として設立されたが、講演会は性別を問わず、登壇者2人のビジネスに関心を持つ多くの人々で会場が埋まっていた。この秋の講演会は、JWBA会員や外部からのゲストを迎えて毎年この時期に開催されるという。