カナダ議会下院のアンソニー・ロタ議員が26日に下院議長職を辞任した。ロタ議員は、ウクライナのゼレンスキー大統領のカナダ国会演説の際に、ナチス隊員であったウクライナ出身の退役軍人、ヤロスラフ・フンカ氏(98)を国会に招待した責任を厳しく問われていた。ロタ議長は傍聴席のフンカ氏をウクライナとカナダの英雄として紹介し、総立ちの大喝采にまで導いた。その後カナダのユダヤ人団体が、フンカ氏がドイツ軍武装親衛隊(SS)の師団である「ガリーツィエン」第1師団に所属していた経歴があると指摘し、同氏を招待したことに対する謝罪を要求した。このため野党だけでなく、自らの自由党からも強い非難を受けていた。これに対して、ロタ議長は公式に謝罪したが、辞任を求める声が強まっていた。
トルドー首相も「議長は自らの過ちを認め、謝罪した。しかし、これはカナダ議会にとって、ひいてはすべてのカナダ国民にとって、深く恥ずべき事態だ」と言及していた。
フンカ氏はロタ議員の選挙区に在住しており、今回のゼレンスキー訪問の際にフンカ氏の息子から招待依頼がロタ議員に来たという。下院議長には国会にゲストを招待する権限があり、今回のフンカ氏の傍聴招致はカナダ政府もウクライナ代表団も事前把握はしていなかった。このため、今後は議長からの招待客も含め、しっかり身元調査すべきだという声も上がっている。
ユダヤ団体の調査によれば、第二次世界大戦後にウクライナからカナダへ逃げたSS兵が2000人もいたとされる。今回の報道により過去の経歴が明らかになったフンカ氏を、ポーランド政府はナチス軍人としての罪を問うために身元引き渡しを求めている。
元ナチス隊員がカナダ国会で大喝采まで受けたことは、国際的にもショッキングなこととして報道されている。皮肉にも、ウクライナ侵攻をナチス一掃という名目で続行しているロシアのプロパガンダにはうってつけのニュースとなった。ロタ議長が責任辞任したとは言え、トルドー率いる自由党政権の支持率にも大きく影響すると専門家は見ている。