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Tag: 招客招福の法則

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第104回「『売れた』と『売った』の違いとは」

 今回は、「売れた」と「売った」の違いのお話。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、ある飲食・物販の店からのご報告だ。  その報告は、店主からの次の言葉で始まる。「(ワクワク系でよく語られる)『売上ができた』と『売上をつくる』に大きな違いがあるという言葉になるほど~と感心しました。そして初めてこれが『売上をつくる』ということなんだと思えたことがありましたのでご報告します」。  同店はレストランとしての営業の傍ら、地元産のお米を使ったシフォンとサブレなどを製造販売している。例年3月から4月にかけては、日本では異動の時期というのもあり、新しい職場への挨拶やお世話になった職場へのお礼などにサブレがよく利用されてきた。今までも、それをある程度想定し、その時期やや多めに用意はしていたが、それ以上特に意識してセールスすることはなかった。  しかし今年は違った。年明けの飲食部門の多忙さも一段落し、菓子の在庫もできてきた3月、「今なら!」と、ワクワク系を実践すべく、SNSで告知した。するとその翌日からひっきりなしに注文の電話がかかってきて、在庫分はあっという間に完売。その後のお客さんには納品を待ってもらうほどになり、「びっくりしました」と店主。つまりこれまでになかったほどの売上となったのだが、この成果の決め手は何だと思うだろうか?  SNSでの実際の告知画面も報告書には添付されていたが、その文面は特にテクニカルなものではない。「春は出会いと別れの季節ですね」の書き出しから「この時期は〇〇(商品名)サブレの注文をたくさんいただくので、たくさん焼いています」と続き、この商品への想いがひとしきり語られ、「お世話になった職場の皆さんへのお礼や、新しい職場などへのご挨拶にとってもおすすめです!」となる、ごく素朴なものだ。  しかし、成果の決め手はまさにその点にある。改めてこの商品を(商品自体は年中売っているものだが)、この時期のお礼や挨拶に最適だと語り直し、発信した点だ。言い換えればこれまでの売上は、この時期、この商品がお礼や挨拶に良いと自ら思い買いに来た人が買ったことによる売上。あえて言えば、お店側は商品を店頭に並べていただけだ。しかし今年のそれは、店主らがSNSでつながっている方々に働きかけ、「ああ、そうだ」「たしかに」などと気づかせ、店に足を運ばせた結果の売上。これが「売れた」と「売った」の違い。店主が実感した「売上をつくる」ということなのである。

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第103回「こういう相手に出会ったとき」

 今回はお客さんに買ってもらう話ではなく、「売ってもらう」話。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、あるリサイクル・リユースショップからのご報告だ。  同社いわく、「リサイクルはやはり買取が命」。たしかに、この業種では、買取が無ければ売るものがなくなる。いかに良い品を買取れるかは売上に直結する。それに関して今回、同社の中の一店舗での、次のような出来事の報告があった。  ある日電話で、名の知れた企業が製造したものではない電動自転車の買取依頼があった。他社にも電話し、メーカーものでは無いということで断られたとのことだったが、同店店長は快く出張買取に向かった。行ってみると、その方のお宅は高級住宅街の大きな家。自転車の買取自体はすぐ済んだが、いろいろ話をしているうちに家に上がらせていただくことになった。  そうして家に入ると、そこに電子ドラムが。実はこの店長、現役のドラマーでもあり、そのことをきっかけにさらに話が進むうちに、お客さんも今も現役でバンドをやっていることが判明。バンドのライブ映像まで見せてもらい、大いに盛り上がり、その日はそのまま、その方の家を後にした。  するとしばらくしてまたこのお客さんから連絡があった。ミシンとギターがあるので見てほしいとのことで出向くと、著名ブランドのレアなギターがそこに。もちろん買い取らせてもらったが、さらにその後も連絡が。3度目の訪問では、お客さんのバンドメンバーも勢ぞろい。彼らからも続々とう優良な買取品が出て来て、もちろん買い取らせてもらった。  またこのお客さんからも、大手楽器店に下取り査定に出しているサックスがあるとのこと。それも見せて欲しいとお願いしたところ、後日大手楽器店から引き揚げてくれ、そのサックスも大手楽器店の下取り価格と同額で買取することができたという。  先ほど、この業種では「買取が命」という話をした。ゆえにこの業界では「他店より高く買います」という謳い文句をよく見るが、このお客さんにとって、同店に買い取ってもらいたい理由はそこではない。また今回、バンドメンバーからまで買取ることができたわけだが、このお客さんはメンバーに何と声を掛けたのだろう?  最近改めて思う。買取に限らず、何かをお店に頼みたいとき、信頼できる店、任せられる相手、そういう存在にめっきり出会えなくなったと。だからこそそういう相手を見つけたとき、お客さんはどんな行動に出るか。それがこの事例から伺える。  そしてあなたに考えてみてほしい。人が「この人に任せたい」と思うきっかけや理由は何か。その答えが、この事例の中に幾つも埋もれているが、それは何だと思うだろうか?

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第102回「たったこれだけの改善で売上が2.3倍に」

 今回は、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、あるペット用品ショップでの事例。意外な盲点に気づき、看板の写真を変えただけで、売上(年商)が2.3倍になった、というお話だ。  同店は大型のロードサイド店で、道に面して広い面積で店のファサード(正面から見た外観)がある。すっきりした外観デザインに、ファサードの両脇にはペット用品ショップらしく可愛い犬の写真が、遠目からも分かる大きさで掲げられていた。  しかしこれが盲点だった。同店は犬用品の専門店ではない。猫用品も多く扱っている。というか、よほど特定のペット用品に特化したマニアックな店でもない限り、ペット用品ショップである以上、犬猫両方の用品を扱うのは、日本のペット業界では普通のこと。特に同店のような大型店においてはそうで、当然お客さんもそう思っている、と店主らも思い込んでいた。だが、ワクワク系マーケティングを学び実践するに連れて疑問が湧いてきた。実際にはどうだろうか?  そこで店主は、右側の大きな写真を猫に替えてみた。新たな店のファサードとしては、左側が犬、右側が猫だ。すると一気に猫用品の売上は伸び始め、写真変更から4年経った今、猫用品の年商は、変更前の2.3倍にまで伸びたのである。  この間同店は、チラシや SNS広告などは一切やっていない。通常ペット用品ショップで、犬用品に比較して猫用品の売上がかんばしくなければ、チラシやSNS広告など、マーケティング的にいかにも目が向きやすいところの手を打つだろう。同店主のように、ファサードの看板写真が犬だけのため、通りを通る見込み客からは「犬用品の専門店」と認識され、猫用品は扱っていないと思われているのではないか、そもそも猫の飼い主からはそこに店があるとも認識されず単に素通りされているのではないか、という点には、なかなか思いがいたらない。  しかしこういうことは、ワクワク系的な視点での改善ではよくあることだ。なにせ相手は人間なのだから。チラシやSNS広告など、販促や集客の「手法・手段」ではなく、「人」の方に目を向ける。「人」の習性について学び、「人」からビジネスを考える。それによって盲点が見えて来る。すると今回の例のように、写真を替えただけで売上が2.3倍になるような思いもかけない(しかし実は当然の)成果が得られるようにもなるのである。

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第101回「知恵を分かち合うということ」

   ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、ある卸業経営者の方から、面白い(?)ご報告をいただいた。それは、顧客との絆作り実践においてのことだ。  彼がワクワク系マーケティングの存在を知ったのは、2021年に刊行された拙著『「顧客消滅」時代のマーケティング』。当時、価格と納期で同業他社と熾烈な競争下にあったという同社。彼も大いに悩んでいた中、本書に出合い「これだ!」と感じ、実践会に入会。以後、特に顧客との絆作りに力を入れた実践で価格と納期の競争からも脱却。現在は日々楽しく商売を行い、業績も堅調だ。  そんななか、先日行われた、全国から実践会員が集う場に彼も出席。多くの方と名刺交換ができたそうだが、今回の報告はその後の出来事についてだった。  お客さんに限らず、「出会ったら、つながる」というのがセオリーの一つであるワクワク系。そこで名刺交換をした人たちから後日続々とレターやメールなどが届く中、あるハガキに目が釘付になった。それは、ハガキの裏面上部に大きく「感謝」と書かれ、下に手書きで一筆メッセージが書き込めるようになっており、下部には社長の顔写真と自身の簡単な自己紹介などがあるものだが、彼は気づいた。自社が今、名刺交換したお客さんに送っているハガキと仕様がほぼ同じなのだ。それもそのはず、ワクワク系の学びと実践を始めて早々、彼が参考にした事例がこの会社の事例だった。同じBtoBの事業者ゆえ真似しやすかったこともあり、まさにこのハガキを真似させてもらったのだ。それから2年。すっかり自社の活動として定着しており、効果も実感しているこのハガキ。同社においてあまりにも自然な活動になっており、真似させてもらったことも忘れていたのだそうだ。  私たちはもう20年以上に渡って実践会を主宰しているが、その大きな理由の一つは、成果が出るやり方や、具体的な事例を分かち合うことだ。今回の彼も、「絆作りをやってこなかったわが社は何をすればよいか分からなかったので、事例を見て真似するのが手っ取り早かったのです」と言うが、そうするために我々は集っている。さらに彼は「実践して習慣化すると、真似させてもらったこともすっかり忘れていました」とも言うが、分かち合われたからには、そうなることが望ましい。  変化が速く激しいこの時代、「知恵を分かち合う」ことがとても重要だ。ワクワク系マーケティング実践会24年。このコラムも今回で101回を数える。これからも一層、意義ある分かち合いを続けていきたい。

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第100回「なぜこの商品は売れに売れたのか(後編)」 

 前回の、ある牛乳販売店での誤発注の話の後編。誤発注により入荷した1800袋の商品が、顧客の応援により、結果、完売どころか倍の約3500袋売れたのだが、こういったことが起こるお店や会社には共通した背景がある。同店が日頃から行っていることにも、その一端を見ることができるが、例えばそのひとつはコロナ禍でのことだ。世の中全体が暗いムードになっていた頃、同店の顧客も、自粛生活の日々に、「疲れた…」「気が滅入る」「いつまで続くのか…」など、どんよりとした気持ちになっていた。そんなとき店主はこう思った。「お客さんに何かしてあげたい!こんなときだからこそ、当社が出来る事があるはず!」。  そこで考えたことは、メッセージカードを添えて、フラワーアレンジメントを贈ることだった。そもそも店主自身、大の花好き。テーブルに花があるだけで部屋も心も明るくなる。まさにこういうときにぴったりだと決定。一人600円の予算と決め、上位顧客500名に届けると、その日から反響は凄く、電話によるお礼や手紙が殺到した。特に電話では「直接、お礼をしたかったから」という声が多く聞かれた。これはほんの一例だが、同店ではかねてよりこのように、顧客の気持ちに寄り添い、折に触れ様々なことを行ってきた。  また、顧客との普段からのコミュニケーションは、主に配達時の会話と、毎月のニューズレターで大切にしてきた。配達時の会話に関しては、近年は以前より1配達ルートごとの配達件数を減らし、時間の余裕が生まれるようにして、その分顧客との会話に充てた。とはいえ会えない顧客も多いため、ニューズレターは毎月発行、届け続けてきたことで、最近でも顧客から「毎月楽しみにしています」「牛乳よりも、むしろこれを読みたいので続けています」などのお声をいただけている。  そこで今回の「お願いチラシ」だ。普段からこのようなコミュニケーションがあり、ときにフラワーアレンジメントのプレゼントなどに感謝の気持ちを抱き、愛着や信頼を寄せている相手から、今回のような「お願い」が届いたとき、あなたならどう感じるだろうか?それこそが今回の結果を生んだ背景であり、同様の結果を生むすべての現場に共通したものだ。  ちなみに店主。今回の「お願い」にご協力いただいた顧客に、まずはご協力のおかげで無事完売(と言うか、倍売れたのだが)したことを伝えた。そしてそのお礼にと、この地域で販売していないお菓子を取り寄せプレゼントしたところ、またまた、「よかった!!心配だったのよ」「また何かあったら言ってね!」「いつも色々と心遣いをしてもらっているから力になれて良かった!」など多数の嬉しいお言葉をいただけたという。  私は日々会員企業のこのような実例を見聞きし、つくづく思う。商売は人の営みなのである。

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第99回「なぜこの商品は売れに売れたのか(前編)」

 今回は、誤発注により大量に入荷してしまった商品が、結果的に追加発注するほど売れに売れたお話。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、牛乳販売店からのご報告。ちなみに「牛乳販売店」とは、顧客宅に契約期間中、継続して牛乳をお届けする宅配ビジネスだ。  話はクリスマスシーズンにさかのぼる。顧客に自店らしいクリスマスプレゼントをお届けしようと、取り扱い商品の中にあるミネストローネスープに決め、900袋を発注した。ところが誤って2回発注してしまい、倍の1800袋が入荷してきた。メーカー担当者に返品をお願いしてみたが、一度出荷したものは戻せないとの返答。担当者からは「半額セールのチラシを作りますので、売れるだけ売って、余ったものはまた考えましょう」と提案された。  そこで店主、「これは、あの事例を参考にするときだ」とひらめいた。「あの事例」とは、このコラムでも過去に掲載したものがあるが、このような誤発注による大量入荷の際、実践会員がよく打つ手がある。自店もそれを行うときだ、と思ったのである。  そこで彼が行ったことは、顧客へチラシを配布、購入を促すことだ。といっても、メーカー担当者が言うような半額セールのようなものではない。販売価格は定価だ。このチラシの特徴は、見出しに大きくこう書かれていることだ。「助けてください!」。そして、「私は年末に大きなミスをしてしまいました」へと続くこのチラシは、お客さんに誤発注してしまった商品を買っていただくよう、応援をお願いするものだ。  そんな手前勝手なお願いをお客さんが聞くのか?と疑問に思う方がいらっしゃるかもしれない。しかし配布するいなや、翌日から牛乳ボックスには注文書があふれた。「心配で電話した!」と、電話で注文をする人も多く、なかには「大丈夫!?大変でしょう、60食分の10箱、買わせてもらうね」と言う方まで現れた。結果、291軒から注文をいただき、販売総数はそもそもの誤発注分を大きく超え、3528袋にもなったのだった。後日、メーカーの営業担当者に「3500袋注文が入って在庫は無事になくなったので、大丈夫でした」と伝えると、その方は頭がポカーンとなっていたそうだが、無理もない。このようなことは普通起こらない。しかし、当会の会員の現場では常に起こる。その背景には共通項があり、同店が日頃から行っていることに、それを見ることができる。それはどんなことか。この続きは次回に。

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第98回「〇〇しただけで、客数172%の盲点とは」

 今日は、あることをしたら、客数が172%に伸びたお話。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、にじます料理店からのご報告だ。  同店は、人口2万人弱のある地方の町で60年以上も営まれている、にじます料理店だ。小さな町ゆえ、店主も、「知名度はそれなりにあるだろう」と長らく思っていた。しかし実践会に入会し、聞く様々な事例の中に、「長らく隣に住んでいたが存在を知らなかったリフォーム店」の話があり、彼も「ひょっとして自分が思うほど自分の店は知られていないのでは」と不安になってきた。  ちなみにこのリフォーム店の話とは、次のようなものだ。大阪でリフォーム店を営むある会員が、新しいお客さんからのリフォーム相談を受け、めでたく大きな受注となった。それはもちろん喜ぶべき話だ。だが、実はそのお客さん、ほぼ隣に長年住んでおり、来店の際こう言ったのだ。「ここにリフォーム店があるなんて、知らなかった」。  たしかに、辺りはビルやマンションが立ち並ぶ場所ではある。しかし、このリフォーム店はビルの1階にあり、ウインドウは歩道に面している。立て看板も立てている。しかも、このお客さんの住まいの場所から考えて、これまで何千回と店の前を通っていることは間違いない。しかし、店があることすら「知らなかった」のである。  そこで先ほどのにじます料理店だ。店主は考えた。年に1、2度、今も町内にチラシを打っている。今までは無意識のうちに、店は知られているという前提で、メニューや時期折々の特別料理の案内をしていたが、今回は「『自己紹介チラシ』を作成することにしました」。  「自己紹介チラシ」とは、同店を知らない人、訪れたことのない人を対象としたチラシだ。ゆえに内容も、「店がどこにあるのか、何を売っているのかをわかりやすく説明する」「にじますというあまりなじみのない魚と料理について詳しく説明する」「『初めての方におすすめ』の提案をする」と店主の言う、「初めての方向け」を徹底した。そうしてそのチラシを配布したところ、次の月の来店客数は前月比で123%、前年同月比ではなんと172%にもなったのである。  長年ここで店をやっている、出店して何年も経つ、そういう理由で人は自店の存在が知られていると思い込むが、そこに盲点がある。当のお客さんの方は、あなたの店の存在を知らないことの方が多いからだ。だからこそ、常に自社や自店が知られていないのではないかと正しい疑問を持つこと。そして、折に触れて「初めての方向け」のアプローチをすることが肝要だ。あなたの顧客になるはずの多くの人たちは、まだまだあなたと出会うのを待っているのである。

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第97回「「+サービス」で無限の価値を」

 今回は、あるバーの店主からの報告をご紹介しよう。私が20年以上主宰するワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、本格ウイスキーが売り物のバーからのものだ。  今、ウイスキーは世界中で品薄状態が続いている。取り合いになっているのだ。結果、バーから見れば仕入れ原価はどんどん上がる。となれば、当然売価に反映させるしかないのだが、これがそう単純ではない。店主もこう言う。「ウイスキーの中身はもちろん変わりません。ということはお客様に仕入れが上がったことに伴う値上げをしたとしたら、お客様が受け取る価値は変わらず、価格だけ上がるという直接的な値上げになってしまう。これは非常に良くないのではないか」。  そこで彼は、自店が提供できる価値を見直すことにした。そしてその際、次のような考え方を基にした。「『仕入れ価格は原価の一部』と考えて、『サービス』が足し算されて定価と言うものが決定される。この『+サービス』の部分はある意味店側が決定出来る要素で、仕入れ原価から切り離して考える事ができる重要な部分」。そして具体的にその「+サービス」を変えることによって、価格を上げることが可能か実行してみた。  そのカギは「グラス」だ。ウイスキーにしてもカクテルにしても、必ずグラスは使う。同店はオーセンティックバーゆえ、これまでもグラスには気を使って来たが、ここでさらに高級なグラスで提供することで、中身は同じでも「+サービス」で価値を上げ、価格に反映させることは可能だ、と考えたのだ。  しかし、グラスをより高級に変えたといっても、すべてのお客さんがグラスに興味があるわけではない。「そこは根気よく価値を伝え教えることがとても重要」と店主は言うが、かといって単純に「今のロックグラスはバカラですよ」と言うのも違う。  そこで例えば彼はこう言うのだ。「飲んでいるグラスを真上から覗いて下さい。ウイスキーの万華鏡が見えますよ」。  「この一瞬の体験は強く印象に残るようで、お客様の反応は凄く良い」と店主。同店ではこのような「+サービス」の価値向上を様々に行い、お客さんの好評を得ながら、スムーズな値上げに成功している。  「+サービス」を含めて定価だという考え方は秀逸だ。それならば価値は無限に作ることができ、価格にも縛られない。そして彼のように常に「考える」ことで、打つべき手は生み出されてくるのである。

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