性の多様性について、世界の中でも進んだ捉え方をしているカナダ。性に関する情報が溢れる社会の中、カナダで子供達はどのような教育を受けているのか、また、親として子供にどのようなメッセージを伝えるべきなのか、Crisis Pregnancy Centreで中高生の性教育に携わる、ペルムター美弥(みや)さんにお話を伺った。(取材 長尾トミ)
美弥さんが、Crisis Pregnancy Centreで活動されることになったきっかけなどを教えていただけますか。
予期せぬ妊娠をして誰にも言えずにコンビニのトイレで子供を産んで放置する日本のニュースを見て、あまりにも悲しい気持ちになったのがきっかけです。12年前にCrisis Pregnancy Centreという非営利団体でボランティアを始めました。
このセンターは妊娠した人のサポートをする団体です。予期せぬ妊娠をしてしまった人の殆どはショックでどうしていいかわかりません。またとても孤独になってしまう人が多いです。センターではそういった人が心身共に安全を感じられる場所となるような支援を行っています。彼女達が自分の状況を把握し、自分の価値観に合わせて今後どんな選択肢があるのかを考え、決めていくプロセスに寄り添い、また、他の団体と提携しつつアフターケアにも取り組んでいます。
私はこのセンターで学んだことをいつか日本に持っていきたいという思いでボランティアを始めました。その後、他のボランティアと一緒にCrisis Pregnancy Centreの性教育部門であるS.H.A.R.E.を立ち上げました。今は職員として働きながら、メトロバンクーバーの中高生に向けた性教育の授業を提供しています。
そもそもカナダの教育課程の中で、性教育はカリキュラムの一環として必須科目の中に含まれているのでしょうか?
はい、含まれています。BC州ではキンダーガーテンから10年生まで、それぞれの学年に応じた基本的なガイドラインが州政府から示されていて、保健体育の授業の一環で性について扱っています。例えば小学校低学年では体のパーツの名前、高学年になると個人の価値観や信仰、性的アイデンティティー、ソーシャルメディアの影響や感染症など、より多面的な捉え方になりますね。中高生になると更に内容も深くなり、例えば健康的な人間関係、性的な意思決定などについて、保健体育の他にキャリアライフの授業で取り上げる学校もあります。
こうした政府のガイドラインはありますが、実際のところ授業の内容や方法については、それぞれの先生によって大きく違っていると感じています。先生方が教えられるのを補う形で、私達のような外部の団体に性教育の授業を依頼している学校が多いようですね。
美弥さんが中学や高校で性教育のプレゼンテーションをされているのは学校や先生に依頼されているからなのですね。どういった内容なのでしょうか。
もともとは私達のセンターに14歳などで妊娠検査を受けに来る若い子供がいたり、また思わぬ形で妊娠した人の多くが不健康な人間関係の上に希望していなかった妊娠をして苦しんでいるのを知り、少しでも私達の知識を若い人と共有できれば、一人でもそういった妊娠を防げるのではないか、と考えたのがきかっけでした。
学校でプレゼンテーションを行うにあたって、子供達に伝えたいメッセージは3つです。1つ目は、セックスは身体的、知的、感情的、社交的、霊的な部分にも影響を与えるものだからこそ、性に関する意思決定が、自分の価値観に沿ったものであることが大事だということです。私達がこの5つの要素を総体的に考えて意思決定をする時、大概の場合、その決定に納得がいきます。意思決定の結果に関わらず、5つの要素がうまくバランスが取れている時、私たちは健康に感じるのです。
2つ目は、性に関する意思決定をする時に、ソーシャルメディアや、ピア・プレッシャーを含め、私達が社会からセックスやパートナーとのおつきあいに関して得ている情報がどんなものか考えることが大切ということ。そして最後に、子供達はそれぞれ深く考える力があり、自分の価値観に合った健康的な選択をすることができるんだと励ますことです。
具体的なプログラムの内容は、例えば、十代の脳の発達、健全とは何か、自分の価値観とは何か、性的な想像や性行為によって脳から出る分泌物についても教え、だからセックスは「たかがセックス」ではないと学んでもらいます。また健康・不健康な人間関係とはどういったものか、お互いをリスペクトした別れ方、境界線とは、性被害について、性行為への同意、Noの言い方、予期せぬ妊娠、性感染症、ポルノグラフィの危険性などです。
どれもとても大事な内容ですよね。美弥さんからご覧になって、カナダの子供を取り巻く性に関する現状はいかがでしょうか。また、カナダ在住の日本人の親と子に知っておいて欲しいと思うことはどんなことでしょうか。
今の十代は生まれた時にYoutubeが存在していたデジタル原人世代です。情報過多で何が正しい情報なのか、いくつもの真実が飛び交う社会に生きています。親世代の私達が経験した十代よりも便利にはなりましたが、どの世代よりも寂しい世代ともいわれています。ソーシャルメディアに頼った薄い人間関係、ハートやいいね、PVやフォロワー数で自分が評価されてしまう、そんな社会で自分の価値観や存在する意味も見失ってしまいそうな子供も多いです。
また私達が生きている社会はHyper Sexualized Societyです。歌も広告も、テレビも映画も、本もファッションもメイクアップも、何から何まで性的に作られています。それを毎日目にしていると、例えば人をモノのように扱ったり、性自体を軽視したり、自分の欲求のままに欲しければ手に入れらればいいと、それが当たり前かのように伝えられるようになってきている反面、性暴力や性被害の増加、メンタルヘルスの問題、予想外の妊娠、性感染症、ポルノの影響で依存症が増えたり、それによって人間関係が崩れたりと、限りない問題が出てきています。
親御さんには子供達が何を目の当たりにしているのかを近くで知ってもらい、会話を数多く重ねることで、子供が自分の価値とは何なのか、将来どんな人になりたいのか、どんな人とお付き合いしたいのか、しっかりした心の土台を持てるように手助けしてあげて欲しいですね。
子供との会話の中でセックスに関することは恥ずかしい、タブーなことではなく、当たり前のこととして話すのもとても大事なことです。大事な話を子供が他の誰でもない、私達親に真っ先に伝えてくれるように、オープンな会話がいつでもできるような関係を作っていきたいですね。
本当にその通りですね。カナダに何年も住んでいても、子供が何に直面しているのか知るのは難しいと思うこともあります。今日のお話は親としてハッとさせられましたし、とても勉強になりました。どうもありがとうございました。
Crisis Pregnancy Centre
電話:604-731-1122(バンクーバー)
604-525-0999(バーナビー)
メール:share@optionscentre.ca(Miya Pelmter)