子供や孫のコミュニケーション能力の発達に不安を感じることはないだろうか。そんな際、相談できるのがスピーチ・ランゲージ・パソロジスト(言語聴覚士、以下:SLP)である。今回は、ブリティッシュ・コロンビア州で15年以上、5歳以下の子供を対象にレジスタードSLPとして活動してきたRina Dulk(リナ・ドルク)さんからSLPによるサービスと、保護者へのアドバイスを伺った。(取材 パーバッカー真智子)
SLPとは
「私たちSLPは、聞く、話すことだけでなく、コミュニケーション全般を専門としています。就学前の子供は「学ぶ」「友達を作る」「良い人間関係を築く」といった能力を徐々に高めていきますが、その中には自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)などをはじめとしたさまざまな発達障害、言語障害、発音障害、聴覚障害などにより、周りとコミュニケーションを取ることが困難な子供たちもいます。そのような子供たちの抱える問題を改善するお手伝いをするのがSLPなのです」とリナさんは説明する。SLPは講習、カンファレンスへの参加、最新の情報を同業者同士で共有するなどによって、常に知識や技術のアップデートを行っている。最新の研究やセラピー結果など、しっかりとした科学的根拠に基づき、会話する、理解する、発音・発語するなど、子供がコミュニケーション能力を向上していけるようサポートしていく。
具体的に行うことは以下の3つ。
①診断
通常SLPが独自にスピーチランゲージアセスメントを行うが、発達障害などの診断の際には、発達小児科医(developmental paediatrician)、臨床心理医(psychologist)、作業療法士(occupational therapist)などとともに診断を行うこともある。
②セラピー
セラピーは、カードを使ってものの名前を覚える、人形を使ってごっこ遊びをする、サインランゲージを使って行うなど、子供の症状によって異なる。家でセラピーをする場合は、SLPとのセラピー以外でも保護者が子供と訓練を行えるように、家にあるものを使ってセラピーを行う。またマンツーマン、グループで行われる場合など、子供によって内容や形式が変わる。
③保護者への指導
セラピーを始めても、子供たちがほとんどの時間を過ごすのは家庭やデイケアなどの施設である。そのため、保護者をはじめとする周りの人々が日常生活の中でどのように子供と関わり、支えていけば良いかの知識を持つことはとても重要である。SLPは常に保護者と話す時間を作り、現在の子供の様子や状況を共有し、悩みや疑問などについても対応していく。また子供の治療成果を見ながら、定期的に家族とともに次のステップへの目標設定を行うことも、仕事のひとつである。リナさんのところでは、セラピーのセッション中、電話、メールなどで保護者と話をし、ゴール設定を6か月ごとに行っている。
どのタイミングでSLPに連絡をするべき?
「子どもたちの発達速度には個人差があり、周りの子供たちと比べて発達が遅れていると感じても、正常である場合もあって判断は難しいと思います。そのため以下の兆候が見られるなど、お子さんが人とのコミュニケーションに何らかの問題を抱えていると感じたら、まず現在の発達状況をHealthLinkBCなどで公開されている年齢別指標(以下リンク)に照らし合わせて確認を行うことが必要です。その結果に基づいてSLPのサービスを受けるかを判断し、すぐに申請されるのが良いと思います。」
<子供が見せる兆候の例>
- 母親や父親の呼びかけに反応しない
- 体の部位やものの名前が言えない
- 言葉ではなくジェスチャーや表情で伝えようとすることが多い
- 言葉がなかなか出てこなかったり、文章が作れない
- 言いたいことが伝えられずいつもイライラしている など
<年齢別指標>
- Baby Growth and Development(0-12 months)
- Toddler Growth and Development(12-36 months)
- Preschooler Growth and Development(3-5 years)
- Speech development chat
SLPへアクセスする方法
「SLPのサービスには公共とプライベートの2種類があります。どちらも長所、短所はありますが、まず公共にアクセスをするのが良いと思います。公共は申請から診断、セラピーが始まるまでの待ち時間が、プライベートに比べると長いことが多いためです。公共の施設からサービス開始の連絡を受けるまでの期間、プライベートのSLPによる治療を始める子供も多いです」
<公共サービス>
BC州では0から5歳の発達が遅れている恐れのある子供は、居住区域のヘルスオーソリティーを通し、無料でSLPのサービスを受けることができる。方法は主に以下の2つ。
①専門家からの推薦
ファミリードクター(GP:General Practitioner)、教師、児童保育提供者(デイケアプロバイダー)や幼児教育者(ECE)、看護師など。
②自己推薦
保護者自身による申請。申請方法は居住区域によって異なるため、必ず自分の住む地域のヘルスオーソリティのウェブサイトで確認すること。ヘルスオーソリティの検索はこちらから。
ヘルスオーソリティ | 申請書・ウェブサイト | 申請方法 |
バンクーバー・コスタル(VCH) | ウェブサイト | 最寄りのヘルスセンターを検索の上、そこで申請書をダウンロード (わかりにくいが、申請書は出てきたページをスクロールダウンした箇所にあるので、注意して見ること) 申請書ダウンロードがない施設は、専門家からの推薦のみ受け付け。申請書によって申請方法は違うので、書かれている方法でおこなうこと |
フレイザー・ヘルス(FHA) | ウェブサイト | 電話のみ |
バンクーバーアイランド・ヘルス(VIHA) | 申請書・ウェブサイト | 郵送、またはファックス |
インテリア・ヘルス(IHA) | 申請書・ウェブサイト | 最寄りのヘルスセンターへ申請書を郵送、または電話 |
ノーザン・ヘルス(NHA) | ウェブサイト | ウェブサイトにて申請書をダウンロードの上、郵送、ファックス、記載の住所へ直接ドロップオフ |
<プライベートサービス>
比較的すぐにセラピーを始められる、自分の家に近い場所で施設を探すことができるという点で、プライベートを選ぶ保護者も多い。ただ費用がかかるため、子供の症状などから受給できる補助金や、家族が加入している保険の医療手当などでカバーできないかを確認すると良い。プライベートサービスの検索はこちらから。
保護者に留意してほしい点
「SLPが子供たちにセラピーを行う時間は、子供が普段周りにいる家族や友達と過ごす時間に比べるとわずかです。そのため子供たちの症状の回復には、保護者や周りの人々の積極的なサポートは欠かせません。」
①早期発見
SLPへの相談に年齢制限はないが、早いに越したことはない。早期に発見、治療していくことができれば治療の幅は広がる。無料で受けられるサービスも利用でき、治療にかける時間や補助金の額も変わってくる。
②積極的な子供への関わり
人と接し、関わることで脳は発達し、コミュニケーション能力は向上していく。そのため保護者やデイケアプロバイダ―、兄弟など子供を取り巻く人々が、一緒に話したり、遊んだり、意欲的に子供に関わっていくことが重要である。
③スクリーンタイムを減らす
テレビ、パソコン、スマートフォン、タブレットなど、現在の子供たちはデジタル機器に囲まれている。それらを使用する時間「スクリーンタイム」が長くなればなるほど、子供たちが周りの人間と関わっていく時間は減少する。SLPのセラピーだけでは症状の改善はわずかであり、日常的な時間をどう過ごすかのほうが大切である。
④使い慣れた言語で
保護者が母国語を使って子供と関わっていくことはとても大切である。カナダで生活をしているから、子供とのコミュニケーションは英語を使わなければいけないと考える必要はない。保護者が自信を持って話せる言語を使ってコミュニケーションを取ることが、子供の発達に最も有効であるという研究結果がある。また、家庭のみではなく、SLPとの診断やセラピーにおいても翻訳サービスを受けられる場合もある。
直感を信じて
保護者が違和感を持ったとき、大抵その直感は正しいとリナさんは言う。「少しでも何かがおかしいと思ったときは自分だけで抱え込まず、すぐに専門の機関に頼ってください。症状が改善し、サポートが必要ないと思ったときはいつでもやめられるのだから、今できることは迷わずやってほしい。」と話を締めくくった。
免責事項:本記事はBC州、0歳から5歳の子どもにフォーカスした内容となっています。またBC州内のそれぞれの居住区域や施設によって内容が異なることがあるため、必ずご自身で確認を行ってください。当サイトに掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。