146回 老女とIT
音痴の私が「歌声喫茶」に入会させて貰い、楽しく毎月一回「日系センター」へ通い始めてからもう半年。其れだけでなく、この会のオーガナイザーの一人、ピアニストの多枝さんが、ほぼ毎朝短いピアノ演奏曲をPCで送ってくれる。送られてこない日は、前日の彼女の演奏を聴くから、彼女のピアノ演奏を毎朝聴ける。 音だけではない、ピアノの周りに庭の花や蝋燭が飾られ、部屋中にやさしさが漂っている。素敵な朝。84歳にもうすぐなるこの老女、でも今のIT時代だ。毎朝相手の顔を見ながら音楽が聴けるなんてまるで魔法の様だ。更にグランマが好きなのは、毎朝その演奏の終わりに、必ず彼女がすばらしい笑顔で締めくくってくれるのだ。その笑顔を1日中抱えて生きる日々、本当に幸せだ。そして、「コンピューター様」有り難う、「歌声喫茶様」有難うとつぶやきます。 「またぁ、ママったらぁ!」と娘達に言われるけれど、グランマは60年前に入社したルフトハンザドイツ航空の仮採用を終えたらすぐに、真冬の寒ーいハンブルクにトレーニングに行かされたのよ。その時、忘れられないよ。主な仕事は計算だから計算機のない時代「算盤」を持って行ってさ、授業が始まり私一人クラスで算盤を使用開始。途端、12ヶ国、他国からのクラスメート達に叱られて「算盤」を使わせてもらえなかった。その経験をこの「グランマのひとりごと」に何回書いただろうか? その翌年、やっとフランクフルト空港から近いゼイハイムという所に新しいトレーニングセンターが出来て、初めて各自に計算機が持たされたのよ。皆が「コンピューター、コンピューター!」と両手を上げて喜んだ。あの時のうれしさ、60年経った今も忘れられない。 でもね、どう考えても昔から算盤を使えた中国人、日本人って頭いいよね。3ケタ、4ケタの暗算が出来る羽田ステーションからの日本人同僚だっていたわよ。 兎に角、今、PCの入手は出来る、だけど上手く使えない私。仕方がないからランガラ・カレッジで3ヶ月のパーソナルコンピューターの初歩コースがあったので出席した。しかし、私は3ヶ月コースが終了しても試験を受けられなかった。仕方がない、私はもう一度同じコースを3ヶ月間受けなおした。合計6ヶ月だ。さすがこの老女でも2回目、つまり6ヶ月かかって試験はパス出来た。そして、クラスの最終日、ドアの所に立って皆に挨拶している先生と助手が私に「SEE YOU AGAIN!」とニコニコしながら言った。 私が「DO I HAVE TO COME AGAIN?」と聞くと2人が大笑いをした。いい先生達だった。 今、パーソナルコンピューターだけでなく、アイホンとアイパッド、もう私には区別がつかない。でも携帯電話は持って歩いているし、アイパッドでゲームもする。 ただ日本にいる私の年齢の友人、同年齢の親族達はPCを使わない人が多い。色々、面倒くさいけれど、私の様に「難聴で眩暈」の老女には生きる希望にもつながるから、面倒でも頑張ってみよう。 多枝さんの演奏が毎日聴けるだけでもうれしいんだ。