コロナ禍で日本への遠征を延期していた少年野球チーム『新朝日』に、ようやくそのときが来た。選手20人、コーチ5人が3月8日から19日まで神戸を中心に滞在し、日本の野球チームと親善試合や交流を行う。
出発前にブリティッシュ・コロンビア州リッチモンド市内の室内練習場を訪ね、チームに話を聞いた。
バンクーバー朝日の栄誉を称え
カナディアン日系ユース・ベースボールクラブ(現:朝日ベースボール・アソシエーション)が発足したのは2014年。13歳から15歳までの少年が野球チーム新朝日に入団し、バンクーバー朝日の栄誉を称える記念試合を行った。
バンクーバー朝日とは、戦前のバンクーバーで活躍した伝説の日系人野球チームで、1914年(大正3)年から27年間続いた。新朝日が結成されたのは、オリジナルの朝日誕生から、実に100年目のことであった。
新朝日は記念試合で終わることなく毎年入団テストを行い、選手たちはシーズン中はそれぞれのチームでプレイし、オフシーズンのみ新朝日として週1回の練習に励むというパターンが出来上がった。
選手のひとりトーマス・メインくん(15)は、7歳ごろから日系カナダ人の友達と野球をしてきた関係で新朝日に入って、今年で4年目。「日本の文化や歴史に興味があり、遠征後は同行する両親、妹と日本に残り、広島に旅行する予定です」と話す。母親のマーリさんは「私は日系ではありませんが、戦前の朝日が行ったフェアプレイ、道徳心を大切に引き継いでいる新朝日の精神は素晴らしいと思います」と朝日に魅せられたひとりだ。
朝日の元選手で、唯一の生存者であるケイ上西(かみにし)さんは現在101歳。朝日は1941年に第二次世界大戦勃発とともに解散を余儀なくされたが、上西さんは1939年から2年間、内野手として活躍した。
1月に新朝日とともに誕生日を祝った上西さんは「朝日の精神が引き継がれていることをうれしく思います。日本でいいプレイと交流をしてきてもらいたいです」と思いを述べた。
今回は神戸中心に
新朝日は結成の翌年、2015年に日本遠征を行った。おりしも2015年はバンクーバー市と横浜市の姉妹都市提携50周年にあたることから、日本滞在中は横浜市長表敬訪問や地元チームとの親善試合が行われた。
以降2年ごとに日本へ遠征することを目標にし、2017年は奈良県の天理大学、愛知県の大府高校などと、また2019年は多くのカナダ移民を出した滋賀県彦根市を中心に地元のチームと親善試合を行ったが、2021年の遠征はコロナ禍により延期。日本遠征チーム選抜規定は15歳までだが、選抜されながらも日本行きを断念していた年長選手らの参加が今回認められた。
2023年日本遠征のキャプテンを務めるカイ・コンキンくん(16)は、3歳から野球を始め、新朝日に入って3年目。「日本は初めてです。文化やたべものに興味があるし、日本の野球の練習法も見てみたいです」と話す。また、久保伸太朗くん(15)は両親の仕事の関係でバンクーバーに来たが「日本の野球を経験したい」とのこと。
最年少の参加は長友奏太くん(13)で、兄の良真(りょうま)くんも新朝日で2017年と2019年の遠征に参加した。朝日ベースボール・アソシエーションの理事で2023年日本遠征のマネージャーを務める母親の千恵さんは、ユニフォームや帽子などの注文、日本でのホテル予約などさまざまな役割を果たし、一家で新朝日をサポートしている。
4年ぶりとなる今回の遠征は、神戸市を中心に行われる。神戸球友ボーイズ、明石ボーイズ、小野ボーイズ、履正社高校女子硬式野球部、IPU(環太平洋大学)女子硬式野球部、関西大学、三菱重工WEST硬式野球部との親善試合や見学が予定されている。
一昨年ワーキングホリデーでバンクーバーに滞在していた澤田昌吾さんが神戸出身なことから、これらの日程を組むことができた。澤田さんは父親と叔父、本人も甲子園出場経験を持つ野球一家だそうで、選手たちも澤田さんとの再会を楽しみにしているという。
文化交流にも重点を
「日本に遠征を始めた2015年当初は親善試合や練習の見学を第一としましたが、文化交流も重要だということを実感しています」と話すのは、朝日ベースボール・アソシエーション副会長で、2023年日本遠征のアシスタント・コーチを務める福村十三郎(とみお)さん。
「もちろん試合に勝つに越したことはありませんので、練習と準備をしっかりしています。同じように野球を愛する日本の選手との文化交流も大切ですから、選手たちには簡単な挨拶や礼儀、エチケット、箸の持ち方なども教えています」
福村さんは同アソシエーション会長のジョン・ウォングさんらと、日本遠征ヘッドコーチ、アシスタントコーチの役割りを毎回交代で務めている。それは、コーチングが偏らずに指導するための作戦のひとつでもあるという。
「日本の選手が日頃からどんなに激しい練習をしているかということは常々選手に話していますが、それを実際に確かめてもらい、フォームや基本が大事であること、細かい部分など、日本の野球をしっかり学んできてもらいたいです」と、日本遠征にかける期待度は大きい。
最終日には、日本に住むバンクーバー朝日オリジナルメンバーの子孫や親類たちとの交流会も予定している。(取材 ルイーズ阿久沢)